花の旅 4
ある年の四月の末、ゴールデン・ウィークまであと数日のこと、私は成田空港の、離陸をしようと滑走路のはじに位置を定めた飛行機の中にいた。
これから三十五日間、国際交流基金派遣のいけばなの使節として、南アメリカ六カ国を訪問するのだ。
日本に帰ってくるのは六月のはじめである。若葉もそのときにはすっかり青葉になっているのだ。上昇していく機の中で、私はふとそんなことを思った。そして肩に力が入っているような気がして、首を左右にふった。私のいままでの人生のなかで、おそらくもっとも責任の重い仕事がはじまったのだった。
同行の市瀬淑子(いちのせよしこ)さんと私の荷物は合計百四十キロ。いけばなに使う道具類や本、和服、プラスチックの花器。
個人の身のまわりのものも含めてリストにすれば何品目あるだろうか。雑多なスーツケースの中身と、南米の遠さを思うと落ちつかず、たいした時間もたっていないのがわかっていながら、しきりと腕時計をながめるのだった。 |